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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2696号 判決 1999年11月29日

控訴人(被告) 佐々木興産株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 三浦邦俊

同 作間功

同 植松功

同 近江団

同 堀内恭彦

被控訴人(原告) 立体駐車場整備株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 高木権之助

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は控訴人に対して、二億一五七五万〇八三二円及びこれに対する平成一一年四月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

5  第3項について仮執行宣言。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」に記載のとおりであるからこれを引用する(なお、「原告」を「被控訴人」に、「被告」を「控訴人」にそれぞれ改める。)。

一  原判決七頁七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(なお、控訴人は、当審において、力丸が、期限の利益を喪失したのは、右日時の前の直方税務署から本件建物及びその敷地に対して、差押がなされた平成四年四月一〇日とすべきであると主張した。)」

二  原判決九頁三行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「9 原判決に仮執行宣言が付されたので、控訴人は被控訴人に対して、平成一一年四月一二日に、元本一億八二二〇万五一二二円及びこれに対する平成九年一二月一九日から平成一一年四月一二日までの年一四パーセントの割合による金員である三三五四万五七一〇円の合計二億一五七五万〇八三二円を仮に支払った(争いのない事実)。

そこで、控訴人は、被控訴人に対して、民事訴訟法二六〇条二項に基づき、原判決を変更する場合には、控訴人が被控訴人に対して支払った右金員の返還と支払日の翌日である平成一一年四月一三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を命ずるよう求めた。」

三  原判決九頁一〇行目の「一部弁済によっても移転しないから」を「一部弁済をした弁済者によるその実行は認められず、」と改める。

四  原判決一〇頁三行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「 そして、一部代位弁済者は、債権者に対して、代物弁済予約に基づく不動産の所有権移転登記請求権保全仮登記につき一部移転の付記登記請求権を有し、債権者が予約完結権を行使した場合に、物上代位権に基づき清算金支払請求権を差押債権とする差押えをすることができるものであって、その限度で、控訴人のように債務の一部保証人であっても、代位に対する期待を有するものである。」

五  原判決一九頁八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(八) 更に、被控訴人には、次のとおり原判決別紙物件目録<省略>の土地上に存在する宗教施設の担保取得を怠り、一〇九四万円の担保を喪失するという担保保存義務違反がある。すなわち、

本件建物の敷地上には、法人格なき宗教団体である十二支苑奉賛会が、昭和五四年ころ建立した十二支苑本堂があり、また、参拝客用の十二支庵と呼ばれる別棟の売店建物も存在する。そして、本件売買契約においては、被控訴人は力丸に対して、本件担保物件に付帯して力丸が新たな建物を取得した場合には、追加担保を請求できる権利を有し、力丸はこれに応じる義務が約定されていたところ(割賦販売契約書六条六項、八項参照甲一)、右約定の勿論解釈として、本件建物に付帯して担保未設定の既存建物があれば、被控訴人は力丸に対して、その既存建物についても追加担保を設定して代物弁済予約の仮登記をするよう請求できる権利を有し、力丸はこれに応じる義務があった。

したがって、右十二支苑本堂の建物及び十二支庵の建物についても、被控訴人は力丸に対して、保存登記をさせた上、被控訴人に対する代物弁済予約の仮登記を設定させるべきであったが、これを怠り、担保を喪失したのと同一の結果をもたらし、右敷地の評価を一〇九四万円減少させた。」

六  原判決一九頁九行目の冒頭の「(八)」を「(九)」と改める。

七  原判決二一頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(一〇) 仮に、本件における控訴人の免責決定時期を更に検討すると次のとおり、平成五年二月となる。すなわち、平成五年二月は、力丸から被控訴人に対して、一方的に申し入れた支払計画書(甲二八)にある毎月六〇万円の返済すら力丸ができなくなった時期であり(甲六)、更に、被控訴人が力丸に「借入金返済に関するお願い」と題する書面(甲二九。右書面には、「このままではジリ貧的資金不足の継続でホテルの完全閉鎖という重大な危機を招来することは目に見えており第三者に売却の外なしとの結論に達しました。」との記載や売却先の見通しについては悲観的との記載がある。)を提出させた時期でもある。

この時点での本件担保物件の評価は、四億八五九〇万円であり(乙三九)、他方、この時点で、仮登記担保権の実行(代物弁済予約契約の予約完結権の行使)があったと仮定した場合に清算の対象となった被控訴人の力丸に対する債権は約五億六五〇〇万円程度であった。

したがって、この時点で、控訴人が被控訴人に対して、一億八〇〇〇万円を一部弁済した後に、被控訴人が担保権の実行をしていれば、五億六五〇〇万円から一億八〇〇〇万円を控除した三億八五〇〇万円の債権しか有しない被控訴人が、力丸から四億八五九〇万円の返済を受けたことになるから、控訴人は、一億〇〇九〇万円の清算金請求権について物上代位権を行使できた筈のものである。

(一一) 更に、本件における免責決定時期について検討するならば、次のとおり、平成五年一一月となる。すなわち、平成五年一一月は、控訴人代表者が力丸の取締役を辞任した時期(甲一二の四)であり、力丸の債務の保証人である控訴人は、主たる債務者である力丸とは全く関係のない状態となった。

この時点での本件担保物件の評価は、四億六九九〇万円であり(乙三九)、他方、この時点で、仮登記担保権の実行(代物弁済予約契約の予約完結権の行使)があったと仮定した場合の清算の対象となった被控訴人の力丸に対する債権は約五億九〇〇〇万円程度であった。

したがって、この時点で、控訴人が被控訴人に対して、一億八〇〇〇万円を一部弁済した後に、被控訴人が担保権の実行をしていれば、五億九〇〇〇万円から一億八〇〇〇万円を控除した四億一〇〇〇万円の債権しか有しない被控訴人が、力丸から四億六九九〇万円の返済を受けたことになるから、控訴人は、約六〇〇〇万円の清算金請求権について物上代位権を行使できた筈のものである。

右の時点から更に時点を後退させれば、清算金が零に限りなく近くなり、ついにはマイナスになることは当然であるが、それにもかかわらず、控訴人に対して保証債務の全額の支払いを請求することは、許されない。」

第三争点に対する判断

一  当裁判所も、被控訴人が、控訴人に対して、民法五〇四条の担保保存義務を負担していると認めることはできないし、仮に、被控訴人が控訴人に対して、民法五〇四条の担保保存義務を負っているとした場合でも、本件において、被控訴人が右担保保存義務に違反したと認めることはできず、結局、被控訴人の本訴請求は理由があると判断する。

その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決三〇頁三行目の「なお」から四行目末尾までを次のとおり改める。「なお、右のとおり、一般的には、被担保債権の一部について代位弁済をすれば、弁済者が弁済額に応じて債権者と共に権利を分け持つことになるのに、債権者が代物弁済予約上の権利を有する場合における一部弁済者は、債権者の有する右代物弁済予約上の権利を全く取得できないのは、均衡を失するかのように解される余地がないではないが、右の代物弁済という制度の性質に照らせば、やむを得ないものというべきであるし、また、本件において、控訴人は、債務の全部を弁済して、代物弁済予約上の権利を取得することは可能であった。」

2  原判決三〇頁八行目から九行目にかけての「その理論的根拠自体、極めて疑問であるというほかはない。したがって、被告の主張は」を「それ自体」と改める。

3  原判決三三頁一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 また、控訴人は、本件における控訴人の免責決定時期を更に検討するとして、それが平成五年二月や一一月であったとして、縷々主張するが、前判示のとおり、本件においては、被控訴人は控訴人に対して、担保保存義務を負わないから、控訴人の右主張も採用できない。」

4  原判決三三頁三行目の「するとしても、」を「するとしても、本来、担保権を実行するかどうかは、原則として当該担保権を有する債権者である被控訴人の自由であり、被控訴人に担保保存義務違反が認められるためには、被控訴人に信義則に反するような特段の事情が存在する必要があるところ、本件では、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。すなわち、」と改める。

5  原判決三五頁八行目の「更正」を「構成」と改める。

6  原判決四一頁二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 なお、控訴人は、被控訴人の本件建物の敷地上の宗教施設の担保取得を怠るという担保保存義務違反をも主張するところ、割賦販売契約書六条(甲一)六項には、「乙(力丸)及び物上保証人は、この契約による別紙1第3項記載の物件(本件担保物件)に付帯して新たに建物、機械器具等の物件を取得したときは、甲(被控訴人)の指定する方法にしたがって担保に追加することとします。」と記載されているが、このことの勿論解釈から、本件売買契約において担保の対象とされなかった既存建物についても被控訴人が担保取得することができることにはならないのは明らかであって(また、控訴人の主張するように法人格なき宗教団体としての十二支苑奉賛会が、昭和五四年ころ建立した十二支苑本堂について、力丸が容易に保存登記できるとも解されない。)、控訴人の右主張は失当である。

加えて、控訴人は、期限の利益喪失日について、当審において、直方税務署から本件建物及びその敷地に対して、差押がされた平成四年四月一〇日とすべきであると主張し、割賦売買契約書(甲一)の一四条には「乙(力丸)が次の各号の一に該当したときは何らの催告なしに未払割賦金総額を一括して直ちに甲(被控訴人)に支払わなければならない」旨が、同条(2)号には「仮差押、仮処分、強制執行、競売の申立または整理、和議、破産、会社更生などの申立があったとき。」、同条(4)号には「公租公課を滞納し、これによって甲(被控訴人)が乙(力丸)に割賦金総額の支払能力がないと認めたとき。」とそれぞれ記載されているが、期限の利益喪失約款所定の事由が生じたからといっても、被控訴人が右約款に基づく権利を行使しなければならないものではない。よって、期限の利益の喪失日がいつであるかによって前記認定が左右されるものではない。」

二  よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木新二郎 裁判官 河本誠之 白石哲)

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